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高校生ウィークは「駅」― 人生の通過点にある、誰かとの出会いの場

話し手:本間未来さん(水戸芸術館現代美術センター ギャラリートーカー)

高校生ウィークを卒業して旅立っていったOB・OGたちは、毎年、高校生ウィーク期間になるとカフェ会場を訪れる。そんな彼らを迎えてくれるのは、いつもそこにいてくれる存在。それが本間さんだ。カフェスタッフのチーフとして、毎年多くのボランティアとふれあい、来場者をあたたかく迎えてつづけてきた本間さん。そんな本間さんは、高校生ウィークを「駅」にたとえる。


お客さんのほうに注意を向けて、背中のほうで、スタッフにも。

 「高校生ウィーク」に関わることになったきっかけ・経緯を教えてください。

トーカー(水戸芸術館現代美術センターの市民ボランティア、CACギャラリートーカー)になったのが1998年で、高校生ウィークのスタッフになるより先に芸術館にはきていて、いい企画だと思っていたんですけど関わりは薄くて。記憶に残ってるのは、チョコレートのチラシをもらったときかな。

「なぜ、これがアートなの?」展のときに、大きなチョコレートの泉みたいな作品があって、チョコレート会社の人をゲストにお招きして、チョコレートの話をしてもらう、っていう企画があったんですよ。でね、そのチラシが板チョコを模したかんじで、チョコレートのロゴが入るところに、「ミットゲイズ(Mitgey’s)」って書いてあるの。なんかすごく、おしゃれなチラシだったんですよ。

で、ちょうど私、そのときに科目等履修生で大学にも出入りしてたから、「学内にチラシ持ってってよ」ってチラシをたくさん束でもらって。それを置きにいったりとかした。それが最初かな、たぶん。

その後は、あんまり覚えてないんですよね。社会人になってから具合悪くしてひきこもってたような状態になってた時期があって、2004年度からようやく復帰して、その2004年度の終わりの頃に、「『高校生ウィーク』のカフェのスタッフやりませんか」って声かけられたんです。

その時期は、トーカーだけじゃなくて、なんか、もうちょっと深く、水戸芸術館に関われたらおもしろいかな、と思い始めてた時期だったし、あと、ずっとアルバイトでデパートの菓子売り場の仕事をしていて、接客をやっていたから、カフェのスタッフもできるかな、っていうのがあって。それで引き受けました。「高校生ウィーク2005」からチーフで入って、今までずっとチーフです。今度で9回目。それもどうなんだかなって感じですけど(笑)

 「高校生ウィーク」に関わる中で、印象的だった人との出会いはありましたか?

いろいろ考えてみたんですけど、しぼりきれないですね(笑)

チーフとしてカフェにいると、毎日毎日、いろんな人が来るわけなんだけど、一人ひとりとのいろんな出会いがあって。話したり、お茶のやりとりをしたりとか。それだけでも、もうひとつひとつがドラマっていうか、その時その時のエピソードになっていくから。

例えば、展覧会を見に来たら、「たまたまこんなところにこんなものがある」、ってビックリした感じで、「ここは何をやってるのかな」って恐る恐る入ってくるお客さんとの出会いとか。そういうときって、こっちもなんかどきどきしちゃうんですよね。

どうやってご案内したら、そういう、好奇心と不安が混じったような感覚に、うまく応えられるか、っていうのを、自分でもいろいろ考えながらお声がけをして、それでうまくいったときとか。そういうのは印象に残ってるかな。

 本間さんは、カフェスタッフのチーフとして、常に、お客さんの方に気持ちを向けているんですね。

そうですね。お客さんの方に向いてる、かな。うんうん。一般の鑑賞者に一番気を向けてるかもしれない。でも、カフェスタッフのボランティアの人たちのことも、すごく気をつけていて、そっちはカフェがオープンする前に関係をつくっておくようにしてます。

準備作業をする中で、いろいろ、なんか、「ここの掃除はこういうふうにやるんだよ」とか、「これからお客さん入ってきたらこういうふうに声をかけてね」とかって言って、それでなんかこう、もうOKって感じにしておくんですよ。カフェがオープンしたら、お客さんのほうに注意を向けて、で、背中のほうで、スタッフにも注意を向けて。そういう感じかな。同時にいろんなところに目を向けて注意を払ってます。

「うれしかった!いろいろできたー!」って思って帰っていってほしいなあ。

 そうすると、印象に残っているエピソードも高校生と一般の来館者とのやりとりだったりするわけですか?

そうですね。最初、内気そうだな、と気にかけていたカフェスタッフの高校生や大学生が、自分から進んで、入り口で入ろうかどうしようか、躊躇しているようなお客さんのところに出かけていって、一人でそのお客さんと話をして、お客さんと一緒にニコニコしながらこっちに入ってきた時とか、うれしいですね。

 そういうときは、きっと本間さんだけでなく、本人もすごくうれしいのでしょうね。

本人がうれしかったら私もスタッフ冥利に尽きますね(笑)「あ、あたし全部自分でできた!」「うれしかったー!いろいろできたー!」って思って帰っていってほしいな。

やっぱり、「人に教えられてできた」っていうよりも、「自分の力でできた」っていうほうが達成感もあるし、それは学校の勉強ではなかなか得られない部分だから。だから、ぜひこういうところでそういう体験をしていってほしいなあ、と思っているんですよね。

 「高校生ウィーク」での経験から、影響を受けたことはありますか?

若い人たちにいろいろ教えてもらっている、っていうのは、すごくあるかな。このプログラムは10代後半から20代初めくらいの人たちが多く集まってきますよね。そういう人たちに、いま流行っているものを教えてもらったり、就職とか進学とかの事情を教えてもらったり、学校であったことに対するその人なりの問題解決の仕方を教えてもらったりして、「ああそっか。そういう考え方もあるんだね」って、気づかせてもらったり。

あと、展覧会を見にいったカフェスタッフが戻ってきたときに、なにげなく質問されたことに、ハッとしたり。

そういうことが、自分に影響してるかな。その、どんどん大人になって、凝り固まってちゃいけないなって思わされる。10代の自分に引き戻されるかんじで。で、それが、今、30代として生きている自分に役に立っていく。だから私も、30代として負けてられないぞ、一生懸命生きなきゃな、っていう気持ちにさせられたりする。そういうのが影響としては大きいかな。

高校生ウィークは「駅」みたいなかんじ

 「高校生ウィーク」とはどのような場であると思いますか?

「駅」みたいなかんじかな。私の感覚で言うと。

「高校生ウィーク」をやってる時期って、年度が変わる時期なんですよね。高校3年生は進学したり、就職したりして旅立っていくし、大学生でも、就職していくとか、大学院に進学していくとか、そういうのがあるし。

で、まあ、在学中の人でも学年が1つ上に上がっていくわけですよね。そういう、自分の中でなにかが1つ進んでいったり、別な方向に移っていったりする。そういうのが、なんかちょっと「駅」みたいだな、と思いますね。……「通過点」みたいなイメージなのかな。

で、なおかつ、いろんな人が行き交ってて、そこで出会ってしゃべって、みたいなところもちょっと「駅」みたいですよね。

ちなみに、規模で言えば水戸駅くらいかな。ローカル線の小さな駅ではなく、新宿や東京などの巨大な駅でもなくて、ほどよく大きな駅というイメージです(笑)

 「高校生ウィーク」は水戸芸術館現代美術センターのプログラムとしてどのような意義があると思いますか?

企画展のすぐ隣でやってる…っていう、ちょっと他の美術館ではなさそうなところが、すごく、よかったりするんじゃないかなぁ。例えば、もっと昔につくられた、大切に保存しなきゃいけない作品を扱っているところだったら、展示室の途中でお茶を出したりなんてできないですよね。でもここだと、それが許されているから、できちゃう。でも、今を生きているお客さんにとっては、その方が楽しいんですよね。

あと、高校生っていう、10代後半で、ほぼ大人なんだけれどまだ子どもっていう、そういう年代の人をメインの対象にしている、っていうのも、わりと少ないんじゃないかな。

自分自身が、高校生の時に水戸芸術館で現代美術を見ておいてとてもよかったな、と今でも思っているので、この年代の人に、「来てください」って呼びかけているのは、とても良いことだと思うんですね。

 最後に、「高校生ウィーク」についてなにか一言、お願いします。

一言にしぼるのは難しいですね・・・。一言にしぼるとしたら、なんだろう・・・?

 「もっとしっかりしろ」とか、そんなかんじでしょうか(笑)

いやいや、みんなすごくしっかりしてると思う。なんか集まってくるボランティアの人たちがすごく優秀なんですよね。だから、私なんかがここにいていいんですか、っていつも思う。

たとえば他でもいろいろボランティアやっている人もいて、すごいなって思うし、卒業して、なんか、すごくいい大学入ったりとか、その後留学したりとか、アート関係の仕事に就いていったりとか。

なんか、そういうふうに、自分の、やりたい方向で、うまくそれを実現していって、すごく良いかたちで実現していく。その様子を見ていると、「私、本当にこういうところに関われてよかったなあ」、って、思いますね。

なんかいろいろ、感謝しっぱなしですね。……だから、「なにか一言」言うとしたら、「高校生ウィークに感謝しっぱなし」かなあ(笑)

 


本間 未来 (ほんま みき)

1975年茨城県日立市出身。同地在住。
考古学や美術史を学びつつイベントの裏方仕事に励む学生時代を経て、大学卒業後の’98年からボランティアスタッフとして水戸芸術館現代美術センターの活動に関わり、ギャラリートークやワークショップなど、主に教育プログラムのサポートに携わる。高校生ウィークでは’05年からカフェスタッフのチーフを務めるほか、会場作りやブカツの運営にも参加している。

反訳・文章:石田喜美/編集:小森岳史・森山純子/写真:根本譲/写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2013年2月17日 水戸芸術館にて