高校生ウィークは、活動の出発点

話し手:須藤和也さん(2009年「音部」顧問)

2008 年の高校生ウィークでも参加者を募集した「きむらとしろうじんじん野点 2008+妄想屋台祭」に「音の実験屋台」で参加した後、「音部」の顧問、「大友良英 アンサンブルズ 2010―共振」展での地域連携 企画など、活動の幅を広げてきた須藤和也さん。
現在、水戸以外の地域でもアート活動に参加している須藤さんは、高校生ウィークを、自分の活動の出発点だと語ります。須藤さんが、自分のやりたいことを企画として実現していくまでにはどのような思いがあったのでしょうか。須藤さんとともに「音部」 の顧問を務めた猿田郁さんにお話を伺っていただきました。


 「高校生ウィーク」に関わることになったきっかけ・経緯を教えてください。

昔から水戸芸術館にはよく行ってたんですよ。で、春になると、高校生ウィークっていうのをやってて。カフェがあったりして、なんかすごくおしゃれだなー、と思いながらも、高校生しか入れないのかなー、なんてちょっと躊躇していたんです。

だけど、「ギャラリートーク」とか「おしゃベリー・グッド」に参加してる中で、一般の人も入れることが分かって、それでカフェに行くようになったんですよね。

それでも、最初はカフェしか行っていなかったんですけど、そこで「妄想屋台」のチラシを見つけたのをきっかけに 「妄想屋台」の企画に参加して、そのあとに森山(純子・水戸芸術館現代美術センター教育プログラムコーディネーター)さんから「音を使ってワークショップやりたい」って話があって、高校生ウィークで「音部」をやるようになった、という感じですね。

自分の妄想がかたちになる瞬間。
「本当にかたちになるとは思わなかった」

「妄想屋台」に関わるきっかけはなんでしたか?

「妄想屋台」っていう名前だったから、「自分の好きな屋台を作れるのかなー」、ってちょっと興味があって。「妄想」という言葉に惹かれるものがあった。でも、最初はみんなで妄想を出し合ってみんなで作っていくもんだと思ってたんです。

最初は、自分の「妄想」をそのまま屋台にしようとは思っていなかったんですね?

あんまりなかった。どちらかっていうと、複合的にみんなの妄想を合体させて1コの屋台をつくる企画だと思ってました。最終的に3つか4つくらいの屋台があればいいのかなぁ…と。だから「そのお手伝いができたらいいなー」くらいに思ってたんです。だけど、実際は、ひとりひとりが、自分の妄想を、完成させてくっていうかたちだったんで、そこがビックリしました。「こういう妄想が通っちゃうんだ!」と。音楽を使った屋台にしようとは思ってたんですけど、屋台にいろんな楽器を詰めて歩いたらどうか、くらいに考えてて、テルミンのことは考えてなかった。やってくうちに、もうちょっと音楽っぽい、楽器を使った屋台があったらおもしろいかなー、と思って、その時に、テルミンの屋台にするとおもしろいかなー、と思って、何気なくその屋台を描いてみたんですよ。…こう、車輪を付けて、テルミンに。それで、森の中とか歩いていくと、なんかおもしろいかなーって。まさかそれが本当にかたちになるとは思いませんでした。

 「音部」での活動はどのようなものでしたか?

(「音部」で制作した音楽のCDをかけながら)これはカフェで、「音部」のワークショップに参加してる人に、いろんな楽器を弾いてもらってつくった曲で、ただ録音しただけなんですけど、セッションに近いかたちで、かなり出来がよかった。

あとは、まちの中に出て音を録ってきて、採集した音をミックスして曲をつくったり、人の声を切り貼りして意味のあるようでないような作品を作ったりしましたね。カフェの中で採集した音をミックスして曲をつくったりもしました。カフェの音 …コップの音とか、スタッフの「こんにちはー」っていう声とかも録りましたけど、音で記録として残るってのはいいかなと。そうするとこう、音を聴いて、さっきみたいに、しゃべってる音とか、ジャラジャラっていう音(註:入口のビーズカーテンの音)とか、ああ、そういうのあったなー とか思い出したりするきっかけになりますよね。

「音部」をやってみて、まちなかを歩いてみるといろいろ発見があるんだなー、と思いました。いろいろな音が、ないように見えて、あった。川の音とかまちの音とか、ふだんはノイズみたいに感じていたんですけれども、実際にはいろんな個性的な音がありましたね。

あと、まちなかを歩くことが重要だと思いました。この企画をやったときは、ただ地図を見て「ここがいいだろう」って言って、なんの下調べもせずにやってしまったっていう反省があります。「ここの地域にはこういう音がある」とか、そういうイメージがあれば、もっとやりやすかったのかな、と。今はそういうノウハウもだんだん自分の中でできてきたので、いま、あらためて当時つくった音楽を聴いていると、もうちょっとこだわらないとマズいなって思いますね(笑)

高校生ウィークで印象に残っているエピソードはありますか?

いろいろありますよね。「音部」に関していうと、なんか、募集したけど「高校生ウィーク」と言いながらも、あんまり高校生じゃない人が参加してて、大人が多かったっていうのがありますね。ちょっとマニアック過ぎたのかもしれない。もう少し面白い感じを出せれば、高校生も来てくれたのかな、と。

活動に参加した人数は少なかったかもしれないけれど、関わってくれた部員たちはすてきな人たちばかりでしたよね。みんな積極的に関わってくれて、たくさんアイディアを寄せてくれました。

そうですね。そういう結果を曲という形に残せたのはすごくよかった。部員として参加してくれた人で、引き続き、音楽を作りつづけてる人もいるし、機会があれば「ブカツ」に関わってみたいっていう人も未だにいる。そういう意味では、印象としては良かったのかな。

高校生ウィークに参加する中で、印象な出会いはありましたか?

「おしゃベリー・グッド」に最初に誘ってくれたのが甃井(貴宏・自称「水戸芸術館のヘビーユーザー」)さんだったりするんで、甃井さんかな。甃井さん、「妄想屋台」でも一緒だったし、そのあと「音部」 に参加してくれたりとか、そういうのもあるし。

一番最初に誘ってもらったきっかけは、Mixi(ミクシィ)だったかな。水戸芸術館コミュのトピックかなにかで「おしゃベリー・グッド」っていうのを見つけて…。そこに、ギャラリートークだけじゃなくって、そこからその、カフェかなんかでお茶を飲んで語りましょう、って書いてあって、それで興味を持ったんです。そこから、入っていったんですよ。それがなかったら、結局、参加しないまま終わったんじゃないかな。やっぱり、仕事もあるんで、そんなに関わらなかったんじゃないかな。

自分の出発点としての高校生ウィーク。
活動の出発点としての水戸芸術館。

高校生ウィークを通して影響を受けたことはありましたか?

高校生ウィークは、まあ、自分がその後やっていく表現活動の第一の出発点ですよね。「妄想屋台」でいろんな人と知り合って、「音部」をやって、大友(良英・ギタリスト、ターンテーブル奏者)さんの企画があって…。あと矢口(克信・アーティスト)さんの「小料理喫茶ワシントン」にも顔出したりとか、中崎(透・ア ーティスト)さんも前から関わってはいたけど、やっぱり関わりが大きく変化したっていう意味では、高校生ウィークの存在が大きいなって。「MeToo 推進室」もそうですね。

それまでも、インターネットで曲を作って公開してましたけど、聴いてくれる人って本当に少ないんですよね。ネット上の音楽は無数にあるからそこで公開したとしても、なかなか聴いてくれない。…なんかそう考えるとやっぱり、リアルに関わった方が、誰かが聴いてくれる度合いもでかくなる。そういう意味で、リアルに 関わった表現活動ってやっぱり大事で、その出発点が高校生ウィーク…って感じですかね。

高校生ウィークとはどのような場だと思いますか?

水戸芸って、ワークショップとかを始めた出発点みたいな部分があるんですよね。いろんな地域でワークショップに参加してても、やっぱり全体のケアのありかたとか、全然違うんですよ。運営のしかたとか。ちょっと言葉では言い切れないけど、細かい部分でかなり違うんだなー、って思うんですよね。

自分が「音部」でワークショップをやったときも、やっぱり運営がいちばん難しかった。材料があったら、ハードは作れるんだけど、 そこからの運営が難しいっていうか。それは本人の資質もあるのかもしれないけれど、でもやっぱり経験がでかいかな。どんなに、ハードを作っても、ワークショップをやるときにお客さんに対する態度とか接し方とか考えないと、やっぱりうまくできないというのは実感してて。

そういう意味では、人と人との共有の度合いが大切なのかな…その人と経験を共有する、その度合いというか。長くその人と関わっていくと、だんだん相手が見えてきたり、相手の言うことがわかって、そこからこう、いろいろ始められる。たとえば猿田さんだと、「音部」以外に MeToo でも関わってるし、「高校生ウィーク」の外でも、別の企画で関わったりしてる。そうすると共有の度合いがでかくなっていく。

同じワークショップなどに関わった人たちが、違う活動にも参加していったりする、というのはよくあるエピソードですよね。

そうですね。「あ、ここにもいた!」みたいな感じになったりすることはありますよね。 それは、まぁ、もちろん悪い部分もあるけど、良い部分もあるんだと思います。共有の度合いをでかくしてく、って意味では 良いことなのかもしれないですね。

「ブカツ」的なものも、最近いろんな地域でやるようになってきているけど、きっと高校生ウィークは、その出発点でもありますよね。カフェについていうと、他の地域でも、ワークショップをやる場だけだったところから幅をひろげて、カフェをつくって、そこからいろんな人とつながるようにする試みが始まってますよね。 カフェの中から、ある活動が派生して、また違う活動が生まれたりとか、そういうのが始まってる。「カフェ」 っていうのは、やっぱり重要なのかなと思ってます。

最後に、高校生ウィークについて言っておきたいことがあればお願いします。

毎年、2月から4月くらいに高校生ウィークがあってカフェができて、楽しい空間がある。そういう状態を継続していくことが、一番でかいんじゃないかな。画期的な企画が生まれても、やっぱり継続することって難しいんです。それが続いていくことが一番でかい。だからそれを何十年とか、そういう単位で続けていくことが一番重要なのかなーと思いますね。

あと、もっと高校生が参加してくれるといいのかな。どうしてもその「美術が好きじゃないと入れないんじゃないか」って思う人が多いと思うんですけど、そういう人たちが入りやすいような空間になっていけばいいんじゃないかなって。 もう一方で、「高校生しか関われないんじゃないか」っていうイメージを取っ払えればいいのかもしれない。そうすると、もっと新しい関わりが出てくるでしょうね。

OTOBU-CD 2009 produced by Kazuya Sudo




すどうかずや
会社員。2006 年にギャラリートークの参加をきっかけに水戸芸術館現代美術センターのボランティア活動を行っています。高校生ウィークでは 2009 年に「音部(おとぶ)」の顧問として活動しました。

聞き手:猿田郁/反訳:本間未来/文章:石田喜美/編集:小森岳史・森山純子/写真:石田龍太郎/動画:石田龍太郎・根本譲/写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2013年3月3日 水戸芸術館にて