戻ってくる場所ではなく、先へジャンプしていくための踏切板でありたい。

話し手:松本美枝子さん(写真家)

写真家の松本美枝子さんは、2009年から毎年、高校生ウィークで「写真部」のワークショップを開催してきました。毎年さまざまなかたちでの成果展示を目指して活動を続けてきた「写真部」。松本さんは、その活動のなかで、自らの写真に真剣に向き合う高校生たちと、言葉を交わし続けてきました。そんな松本さんにとって「写真部」のこれまでの活動はどのように映っているのでしょうか。また、写真家として、ワークショップに関わることにはどのような意味があるのでしょうか。「写真部」の創始メンバーでもある鈴木恵理奈さん、舘かほるさんのおふたりに、お話を聞いていただきました。

「みんなが楽しんでくれることで、自分ができること」
それは、ワークショップでも作品でも変わらない。

― はじめて高校生ウィークに参加したのはいつですか。

2009年の「写真部」からです。「参加」というよりは、参加者の人たちと「一緒にやろう」みたいな感じでしたよね。
その時期はちょうど、写真家として活動しはじめて何年か経ったくらいのときで、それまでも水戸芸術館で展覧会(「クリテリオム68 松本美枝子」など)に出品したり、ワークショップを1回か2回やったことはあったのですが、高校生ウィークは、打ち合わせのときに会場でお茶を飲むのに使ったことがあるくらいで、ほとんど見にも来ていなかったですね。どちらかというと、興味ゼロでした(笑)

そんなとき、2008年にマルコ(・ボーア・写真家/「日常の喜び」(2008年)展出品作家)と共同のワークショップがあったんですよね。はじめは、あまり高校生を呼ぼうとは考えていなかったんですが、マルコが「高校生とか中学生って面白いよね」って言って、「じゃあ、ちょっとやってみるか」という話になって…それで、やってみたらすごく面白かった。自分の人生のなかで、中学生や高校生としゃべったことがほとんどなかったから、実際に高校生たちとしゃべってみたら本当に面白くて。「こういうワークショップやったら面白いな」って思った。そんなときに、参加者のみんなから「もっとああいうのやりたい」「何かやろうよ」って頼まれて、「やっても良いな」って思ったんです。それで、森山(純子・水戸芸術館現代美術センター教育プログラム担当)さんに、「高校生とワークショップをやりたいんだけど」って企画を持っていったら、OKが出たんです。

― 「写真部」では互いに自分の撮ってきた写真を見せ合うワークショップの他、セルフポートレートのワークショップも行われました。それはやはり、松本さん自身がセルフポートレートの作品を制作していたことと関係があるのでしょうか?

やっぱり、自分が好きな撮影以外はできない。自分がやっていて良かったことしか、人に勧められない、人に伝えられないっていうのはありますよね。
ワークショップは、自分のなかで、作品と同じくらい大切な位置を占めてる。この間もゴロゥ(デザイナー)ちゃんに、「子どもや高校生に、ワークショップをやるのって楽しいですか?」「人に教えるっていいもんですか?」というような質問をされたんですが、「教える」とか「授業をする」っていう気持ちは全然ない。自分にとっても作品なんです。
むしろ、「自分のために、君たちを利用させてもらってます」くらいの感じですよね。まったく自分のためじゃないことは、あまりやらない。「これは自分のためだな」って思えることの方が、人と一緒にやっても絶対良いから、「他人のために」とは、あんまり考えてない。「他人のために」というよりは、「みんなが楽しんでくれることで、自分ができること」。そう考えるとやっぱり、ワークショップは作品と同じだな、って思います。だから「ワークショップは作品じゃないでしょ?」って、ある学芸員さんに言われたときに、「ワークショップは作品です」って言って、意見が衝突したことがあります(笑)

ずっと写真をひとりで撮ってきて、これまでと違うことをしたいと思ったときに、
良いタイミングで、参加者のみんなと出会えた。

― 写真は基本的に個人プレーなので、それをいかに共有し、人に伝えたりするかというのは難しい問題です。そのような問題との関係のなかに、ワークショップが位置づけられているのですね。

まさに、そのとおりです。写真は、一人でしか絶対に撮れないんですよね。映画はチームで撮るけれど、写真は個人プレーでしか有り得ない。それを、みんなで共有するための方法は、ワークショップの他にもあるのかもしれないけど、私は今のところワークショップしか考え付かないんですよね。
そういう意味では、ずっと写真をひとりで撮ってきて、ひとりじゃないことしたいなって思った時に、いいタイミングで、参加者のみんなと出会えたんだと思う。自分自身で「これまでとは違うことをしたい」って思っていたときに、たまたま、みんなから声をかけられたって感じかな。

― 「写真部」ではその後どのような活動が行われましたか?

2009年はそんな感じでけっこう自由にやっていて、カフェの中で展示をしたり、2010年はポストカードを作ったりしてましたね。2011年は、震災ですぐダメになっちゃったんですが、スライドショーをやって、2012年はまちなかに展示をしました。

2012年の展示はすごく良かった。その時が一番写真部の部員が多くて、写真部員だけで10人以上いたんです。さらに、キワマリ荘でやってる大人写真部(「水戸のキワマリ荘」にて社会人向けに行われている写真ワークショップ「キワマリ荘の写真部」)にも入ってもらって、大人写真部のメンバーにも高校生のサポートをしてもらいつつ、一緒にまちなかのいろんな場所に展示をしたりしてました。

むしろ、あまりに大きく広げすぎて、ちょっとやりすぎたかなって思ってます。すごく良かったんだけど、今年はちょっと原点に戻ろうと思って、定員5人で、3日間絶対に来られる人しか参加できないかたちにしました。

― 「写真部」のそのような流れを聞くと、自分たちが「写真部」の歴史の最初にいるようで、少し嬉しい気持ちになりますね。

高校生ウィークにはあまり来ないタイプの子と出会えた瞬間、
「こういう子とワークショップしたかった」と思った。

― 高校生ウィークに関わる中で、印象的だった人やエピソードがあったら教えてください。

えっちゃん(鈴木恵理奈・2009年「写真部」に高校生として参加)舘(かほる・2009年「写真部」に高校生として参加)くん、白石(朋也・2009年「写真部」に高校生として参加)くんの、2009年メンバーは面白かったよね。あのときは、まだ何にも決まってない感じで、とにかく、みんなのエネルギーを受け止めつつ、自分も楽しいことやろうって思ってた。最初に君たちが声をかけてくれなかったら、ああいうことはできなかったかな。

もうひとつ印象に残っているのは、2011年と2012年に来てた、渡邊(俊介・2011年~2012年「写真部」に高校生として参加)くんっていう、…っていう、鉄ちゃん(鉄道の撮影を趣味とする人)のフォトグラファー。もうその子が私の中ではどツボだった。高校生ウィークに来る子って基本的に「カルチャー好きっす」みたいな、おしゃれ高校生が多いんですよね。でも渡邊くんはそうじゃない。メガネをかけてて、「僕は、電車以外興味ありません」って、そういう感じなの。
彼を見た瞬間、「あ、来た!」って思った。「こういう子とワークショップしたかったんだ」って。その子は、本当にずっと電車しか撮ってこなくて、もう電車以外ではコミュニケーションが取れないの。他の人の写真の感想とか聞いても、「分かりません。電車じゃないから」って言うの。そういうのがまたすごく面白かった。ブレない男の子ってやっぱり、いつの時代にもいるんだなーって思った。写真もうまいんです。写真がうまいっていうよりも、すごくうまく電車が撮れてる、という方が正確かもしれない。ロマンチックな旅の写真もあって。「どうにか電車だけじゃなくて、人間も入れてきてよ」っていうと、車掌さんや、電車に乗るお客さんを入れた写真を撮ってきてくれたりして、それはすごく良かったですね。

― 高校生ウィークに関わって、影響を受けたことはありますか?

一人一人にすごく影響を受けたということはないけれど、全員から影響を受けたという感覚はありますよね。そういう感覚は、毎年ある。君たちや渡邊君ももちろんそうだし、男の子がいっぱい入ってきた時は、高校生の男の子の感覚が面白いと思ったりすることはありますね。
ガーン!って強いインパクトを受けたのは、朋也(白石智也・2009年「写真部」参加メンバー)が歌舞伎町かどこかで撮ってきた、自分の髪を切ってる写真かな。あれはすごく面白かった。まあ、すごく影響受けたというわけじゃないけど。高校の時にすでにこういうことをやっているのは、うらやましいなって思いました。

跳び箱の前に置いてある、ジャンプするための踏みきり板。
「写真部」はそういう場所で、ありつづけたい。

― 最後に、「写真部」に参加した高校生たちに、なにか一言お願いします。

高校生ウィークに、その年だけ来て来なくなる子っていますよね。その時は一生懸命参加していたけど、全然来なくなっちゃう子。私、そういう、ずっと来なくなっちゃった子たちのことを、よく思い出すの。みんな、すごく一生懸命来てくれてたし、いい写真撮っていてくれた。その中には、多分もう写真を撮っていない子もいるだろうし、美術以外のことに興味が移った子もいると思うんだけど、そういう子たちも、すごく、好きなんですよね。

私は別に、「絶対に、美術をずっと好きでいてほしい」とか、「写真をずっと好きでいてほしい」とか、「またここに戻ってきてほしい」とか、そういう気持ちはあんまりないんです。ここで、楽しい経験を積んで、また違うところで、全然違うことをしていてくれたら良いなっていつも思う。もちろん、秀美(高羽秀美・2009年「写真部」に参加)なんかはずっとカフェのスタッフやってくれてたりするし、それはそれですごく良い。でも一方で、もうずっと会っていない子たちが、この場所をすっかり忘れるくらい、別の場所で元気でやっているといいなぁって思うんですよね。

「写真部」はそういう場所でありたいと思ってます。戻ってくる場所じゃなくても全然良い。跳び箱の前に置いてあるジャンプするための板みたいな、そういう場所であり続けられるといいですね。

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まつもとみえこ
写真家。1974年茨城県生まれ。1998年実践女子大学文学部美学美術史学科卒業。生と死、日常をテーマに、写真と文章による作品を発表。主な受賞に、2000年「第15回写真ひとつぼ展」入選、2004年「第6回新風舎・平間至写真賞大賞」受賞など。主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(ハナヱ・モリビル、表参道)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル2010」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年巡回展「そのやり方なら、知っている。」(水戸のキワマリ荘、adanda・大阪)ほか。また各地で写真ワークショップを多数開催。著書に詩人・谷川俊太郎とコラボレーションした写真詩集『生きる』(ナナロク社)などがある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
今冬は『影像2013』(世田谷美術館区民ギャラリー、2013年11月27日~12月1日まで)に参加予定。
www.miekomatsumoto.com

聞き手:鈴木恵理奈・舘かほる 反訳:岡野恵未子 文章:石田喜美 編集:小森岳史・森山純子 写真:高羽秀美 写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2013年3月31日 水戸芸術館にて