いろんなことを学ばせてもらったので、今度は私が「恩返し」したい。

話し手:太田恵美子(高知県立美術館学芸員/石元泰博フォトセンター担当)

高校の友達に誘われたのをきっかけに、高校生ウィークに関わることになった太田恵美子さん。その後も長らく高校生ウィークに通いつづけた太田さんは、自分の興味や疑問を追求しながら活動を広げ、自分自身の進むべき道を考えてきました。そんな太田さんにとって、高校生時代に参加した高校生ウィークはどのような意味があったのでしょうか。当時から太田さんの成長を見守ってきた、森山純子さんにお話を聞いてもらいました。

出会いは、カルチャー・ショック。
だけどなんだか面白い「第三の場所」。

― はじめて高校生ウィークに参加したのはいつですか。

太田:2003年、ワークショップ・スペースがカフェ的に開放され始めた年、 広報プロジェクトに参加したのが最初です。その時は、コンピューターでアニメーションを作るワークショップをしていて、そこでひとつ作品を作っているように見せつつ、実は、カフェで散歩していた先輩の山崎(一希・ブルーカレント・ジャパン AAE/元茨城大学大学院)さんに全部作ってもらっていました(笑)。

訪れたきっかけは、同じ高校の友達の誘いでした。中学から一緒の友達だったんですけれども、その友達に「放課後に行っている所があるから行こう」って、なにかのきっかけで連れて来てもらったのが最初で・・・すんなりその場に入れたことは入れたんですけど、やっぱりちょっとカルチャー・ショック的なところがありました。

― それはどんなショックだったのですか。

太田:その時、家と高校の往復しかしてなかったので、美術館に行く、芸術館に行くっていう経験もすごくレアだったし、あとは、「こんな場所があるのか」みたいなショックですよね。そもそも当時の私にとっての高校生ウィークの認識は、大人たちが集っている場所、今まで出会ったことのないような人たちが集っている場所があって、そこで、みんながなにかをやっている、話をしている。そしてコンピューターで何かしている・・・というものでしたね。

それでも、その友達と仲良くなりたいと思ったし、アニメーションもその1日では作り終わらなかったのでその後も2~3回その友達と一緒に来ました。 アニメーションは完成しましたが、自分で作ってない時点で、たぶんこの空間や制作に興味があったわけではなかったんですよね。それでもここに来ちゃってたのは、この空間の中に気に入ったところがあったというか、嫌いではなかったというか・・・なんか気になる存在だったんじゃないかな。たぶん、その場所がちょっと面白かったというか、学校以外の「第3の場所」に来ている自分がちょっとカッコイイ、というのもあったんじゃないかと思います。

私、高校の時の記憶が希薄で、特に高校1年生の時には、あまり学校が楽しくなかったんです。自分から部活をやるわけでもなく、授業に積極的に関わるわけでもなく、本当に、学校と家の往復だけしかしてこなかった。だから何か面白いことをしたいというか、もうちょっと人生を有意義にしたいというか、そういう思いが潜在的にあったんでしょうね。

カテゴリー分けできない人たち。
ここで会った人たちは、またここで会える。

― 高校生ウィークの中で、印象的だった人との出会いはありましたか。

太田:ちょっと考えたんですけど、特にないですね(笑)。特にないっていうとネガティブなニュアンスがありますけど、逆に言えば、1回1回の出会いが印象的と言えば印象的なんです。

強いて言えば、すごくざっくりした表現だけど、 「自分よりもちょっと年上の人」 との出会いかな。それは社会人や大学生っていう大人たちなんですけど、実際にお話してみたり、触れ合ってみると、年上だけど心は少年みたいな、子供みたいな大人だな、と思いました。高校生の時って、自分以外の人っていうと同じ年の同級生か、すごく年上の先生や両親。特に私は学校と家の往復しかしてなかったので、その他の大人って、とても遠い存在でした。でもここに来ると、1~2歳くらい年上の先輩みたいな人たちとか、ちょっと違った大人たちに出会えた、それが一番の印象ですね。

ここで出会う人たちって、 すごくバラエティ豊かな人たちで、だから携帯のアドレスを聞いても、カテゴリ分けに困る。どのカテゴリに入れたらいいか困ったあげく、 新しく「水戸芸術館」っていうカテゴリを作るみたいな・・・そういう、新しい種類の人たちですよね。

― 高校生ウィークの中で印象に残っているエピソードがあったら教えてください。

太田:これも他の皆さん仰ることだと思うんですけど、特にない (笑)。

エピソードとは言わないかもしれないけれど、高校生ウィークには「ここで会った人には、またここで会える」という安心感があると思うんですよね。高校生ウィークにすごく長く通っている人たちは通い続けるし、もちろん、就職だとか進学とかの事情で水戸を離れてしまって、もう会えない人もいる。でも「ここに来ればまた会える」「だから今年もここに来よう」「ここに来たらこの人に会おう」・・・そういう感覚なり、再会のエピソードはみんな持っているのではないかな。

興味や疑問を突き詰めていこうとするとき、
一歩を踏み出すための原動力

― 当時のあなたにとって、高校生ウィークとはどのような影響がありましたか?

太田:さっき、高校生ウィークに来たことで新しいカテゴリの知り合いができた、という話をしました。その当時は全然分かってなかったけど、その時の私にとって一番大きかったのは、自分の世界が広がったことだと思います。

高校生の時って、すごく限られた視点しかないですよね。例えば自分の中で「美術は好き」というのはあったと思うんですけど、「職業にしたいな」って思った時に、具体的な職業は、学校の先生・学芸員・アーティスト、その三択くらいしか思いつかない。だけどここに来て、美術との関わり方っていうのはそのみっつだけじゃないと知ることができた。美術を生み出す側でも、受ける側でもなく、つなげる中間野役割があるって、ここでいろんな人と接するうちに知った。社会と美術の関わり方というか、美術を仲介にして生まれていく活動や人との繋がりとか、私にとって興味深いところに気づいて、 なんとなく私が進む方向性ができていったように思います 。

そうしたら、「社会と美術の関わり方にはどんなのがあるんだろ?」っていう疑問が生まれました。それをきっかけに、その後の大学生活では、他の美術館でもボランティアやアルバイトをしてみたり、ギャラリーでインターンをしたり、アート・プロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスに参加してみたり。ぐんぐんと活動が広がっていきました。そういう、自分が興味を持ったり、疑問に思ったことを突き詰めていこうとする、一歩を踏み出すための原動力を高校生ウィークが与えてくれました。それで私は変わっていったのかなと思っています。

学べるだけのことは学んだ。
だから次は自分が「恩返し」したい。

― 高校生ウィークは、どのような場であると思いますか?

太田:高校生ウィークって、すごく「フリー(free)」な場所だなって思います。「フリー」というのは、来るのに「無料」だという意味もありますが、ここに集う人各々が「自由である」という意味。もちろん、自由ってそれぞれが好き勝手にやる無法状態でもないし、実際にこの場所にはいろんな制限とか制約があると思う。でもここで活動してる人たちはすごく自由。つまり「フリー」のさらにまた別の意味、「自由にする」「自由になる」っていうこと。そんな「フリー」という言葉から、何にも縛られず、何をどうするかは自分次第、というとてもポジティブなイメージを受ける。

ここは自由に自分のやりたいことを発信できるし、なにかが生み出される場所でもあるし、それを享受する、共有する場でもある。そして私のように人生が変わるような経験をする人もいるし、「なんだか心地いい場所だな」「展覧会の最後にひと休みできる場所があって良かった」って感じる人もいる。私は高校生ウィークって、そんなふうに自分の主体性によってどんな場所にもなりえる「フリー」な所だって思います。

― 高校生ウィークについて、なにか一言。

太田:この質問、すごく難しいですよね。なにか一言いうとすればさらりと、楽しかったです。
私は高校生ウィークで、自分のすごく重要な時期に、学べるだけのことを学ばせてもらえたと思っています。そして幸運なことに学芸員になることができた。だから今度は私が、お世話になった方に「恩返し」じゃないですけど、なにかできるようになりたいなと思っております。そして、ちょっとビッグになってまた帰ってこよう、と。

― ここで過ごした人たちは、そういう意識がある方が多いですね。ただそれは、水戸に返すのではなくて、それぞれの場所で周りにいる人たちとか、その時期にできることで皆さんが返してるんだなと思うことが多くて、それはすごく嬉しいことですね。

おおた えみこ
茨城県水戸市生まれ。2008年筑波大学芸術専門学群芸術学専攻卒業ののち、広告制作会社勤務を経て、2010年ペギー・グッゲンハイム美術館(イタリア・ヴェネツィア)でインターン。2012年英国レスター大学修士課程アートミュージアムアンドギャラリースタディーズ終了。2013年より高知県立美術館/石元泰博フォトセンター学芸員。高校生ウィークで発生した美術館への興味は、私を海の彼方まで連れて行ってくれました。いまは南国・高知のこじゃんとおいしい食べ物と、さんさんと降り注ぐ太陽をとっても気に入り、むくむくと修行中です。

聞き手:森山純子 反訳:福井彩香 文章:石田喜美 編集:森山純子 写真:高羽秀美写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2013年3月14日 水戸芸術館現代美術センターにて