将来を決める大事な時期に、これからも楽しく生きていく方法を教えてくれた。

話し手:車田彩香さん(茨城大学学生)

大学生になってから水戸で暮らし始めた車田彩香さん。たまたまボランティアとして関わり始めた高校生ウィークは、美術への興味や水戸のまちへの楽しさへの入り口となったようです。それらの魅力に惹かれた車田さんは、大学卒業後も水戸で働くことに。車田さんの将来の選択にも大きく影響した高校生ウィークとはどんなものだったのかを探りました。

漠然と“ボランティア活動”を探していたときに出会った、
カフェスタッフの募集。

― 高校生ウィークに関わり始めたのはいつですか?

車田:大学2年生の春休み(2012年3~4月)からだから、全然長くないです。「アーカイ部」のインタビューの対象に選ばれたのは嬉しかったけど、今までこのインタビューを受けているのは蒼々たるメンバーなのに、水戸芸キャリア(水戸芸術館現代美術センターでのボランティア活動への参加歴)3年の私でいいのかなって感じがしました。

大学2年生の春休みにカフェスタッフの募集を見て、カフェスタッフをやりました。あと、「看板部」という活動が面白そうだなと見ていたら、「やる?」と誘われて、看板を1枚作らせてもらいました。次の年は、就活などで忙しいだろうなと思っていたので、カフェスタッフは出来ないと思っていました。ただ、森山さんに、「もっと水戸芸に関わりたいです」みたいなことを、「あーとバス」(水戸芸術館が送迎バスを用意し、水戸市内の小・中学生に来館の機会と現代美術との出会いの場を用意することを目指した鑑賞プログラム。大学生がボランティアとして鑑賞のガイドを行う)の時に言っていたら、それを森山さんが覚えててくれたんだよね。「『あそビバ部』っていうブカツをやろうとしてるんだけど、顧問として手伝わない?」という感じでお誘いを受けて、それで、顧問に名を連ねさせていただいた。

本当は羽持(望・元常磐大学学生)さんという別の人がやろうとしていた活動なんだけど、羽持さん自身が高校生ウィークにスタッフとして参加したことがなかったから、一応経験者の私をお手伝い係に、みたいな感じで。3年目の今年はカフェスタッフに復帰して、また去年に引き続き「制服部」もやっています。

― カフェスタッフに応募したきっかけは何でしたか?

車田:それまではサークルをやっていたんだよね。だけど大学2年生も終わりの頃になってなんとなくサークルの方も落ち着いてきて、就活のことなどもいろいろ見えてきた時期だったので、何かボランティアみたいなことをしておきたいなあと考えていて。

そしたら大学に高校生ウィークのカフェスタッフ募集の張り紙が張ってあったの。水戸芸術館にはそれまでも何回か展示を見に来ていて好きだったから、やってみようと思って参加しました。何かボランティアをやりたい、っていうのが先にあった。

だから、水戸芸は好きだったけど、美術のボランティアだからやった、っていう感じではなかったかな。美術を専門で勉強してるわけでもなかったから、あんまり何も考えずに、面白そうだと思って参加しました。

― 車田さんは水戸出身ではないですが、そもそも水戸芸術館に通い始めたきっかけというのは何だったのですか。

車田:どこかで水戸芸のことを知って、1年生の冬あたりに、「クワイエット・アテンションズ――彼女からの出発」展(2011年)を観に来て、水戸芸すごい、なんか現代アートってすごい、って思った。その後、「CAFE in Mito 2011― かかわりの色いろ」の展示(2011年)に2、3回は足を運んで、面白いなあって思いました。もともと地元でも、親に美術館へ連れていってもらってたんだけど、自発的に展示を観たいなと思って観に行くことはあんまりなかったし、ましてや現代アートは観たこともなかったかな。美術に興味を持ち始めたのは、それこそ水戸芸に関わり始めてからかなあ。

色々な面白さへの入り口となった、水戸芸術館。

― 大学では、美術とは直接関係ないことを勉強しているのですよね。

車田:そうなの。勉強してることは、地域行政とか地域政策系なので、水戸芸と重なっているとしたら、行政の施設っていう部分くらいしか量ならない(笑)。でも、卒業研究では自由にできるから私も、アートプロジェクトについて書くことにしたの。「地域と美術の関わり」みたいなテーマだから、一応、水戸芸を絡ませることはできたかな。

そもそも、芸術館に来て現代アートを観てなかったら、アートプロジェクトについて学ぼうとも思わなかった。芸術館で『地域を変えるソフトパワー―アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験』(影山裕樹編、藤浩志・AAFネットワーク著。青幻舎。2012年)っていうアートプロジェクトの本を読んで、こんな地域への関わり方もあるんだなあって思って。

その本に会うまでは、卒業研究のテーマも、できるとしたら美術関係かなあ…くらいに思ってた。だけど、この本を読んで、芸術と地域の有機的な関わりみたいなことについての研究もいいなあ、って思って、それがきっかけになって卒論ではアートプロジェクトについて考えることになりました。

― 高校生ウィークに関わる前と後で、街の見方が変わったことはありますか?

車田:街の見方はけっこう変わった。水戸芸に来はじめたことがきっかけで、水戸の街によく遊びに行くようになって、雑貨屋さんとかカフェがだんだん見え始めてきた。水戸って面白い街なんだなって思うきっかけが水戸芸だった気がする。水戸芸をきっかけにして、水戸にはいろんな面白い人がいるっていうのが見えはじめて、それを機に、水戸にいたいなあ、って思い始めました。それで、就職先もこっちを選んで(笑)。

なんというか、高校生ウィークとか芸術館とか、そういう関係でどんどん知り合いや友達が増えていたから、福島に帰ったらさみしくなっちゃうなあって思ったし、水戸にいたら飽きないから(笑)。いろんなイベントもあって、芸術館の展示もすごくおもしろいし、東京も近いし、水戸にいた方が楽しいなあって思って、水戸で就職することに決めました。

大学3年生(2013年)の1月くらいまでは、地元に戻ってもいいし水戸にい続けてもいいかなあ…くらいの気持ちで、どっちかにしたいっていう強い思いはなかった。まあ就職先が見つかった方かなあ…くらいに考えてた。でもやっぱり、水戸に残りたいって思うようになって、2年目(2013年)の高校生ウィークを終えてからは、もう絶対水戸だ!って思ってたかな。

― 絶対水戸に残りたいって思うきっかけになエピソードや人との出会いはありますか?

車田:ある。2年目(2013年)の高校生ウィークの時って、就活でものすごく「うわあ〜」ってなってた時期で。自己PRとか考えなきゃいけないのに自分の良いところが見当たらなくて。そんな中で高校生ウィークに来るとみんな輝いている!きらきらと楽しそうなことをしている人たちがたくさんいて。水戸芸で会った人を通して、「就活して就職するだけじゃないんだ!」「会社員だけじゃないんだ!」ということが見え始めた。

芸術館で働いてる人って、芸術関係の大学に行って芸術関係の仕事をしてる人が多いと思うんだけどそもそもアートの勉強をするという選択に至ったことが、わたしとしては、すごくありえないことだったから、すごく衝撃だった。その頃の自分の中には、「将来こうしなきゃいけない!」っていうルートがあったんだよね。そこそこ良い成績を取って、そこそこ学力の高い高校に通って、大学に進学して、きちんとしたところに就職して、20代後半くらいで結婚して…みたいな(笑)。そういう「優等生ルート」があって、それをちゃんと辿らなきゃいけないってなんとなく思い込んでたんだけど。その話を大森(宏一・水戸芸術館設営スタッフ/アーティスト)さんにしたら、ものすごく驚かれて、「それすごいね!」って言われたの。それを聞いて、そのルートって別に通らなくてもいいんだって気づき始めたんだよね。

それまでは、就職したらもう面白いことも楽しいこともなくなっちゃうんだろうなあ、って思ってたんだけど、それを小泉(英理・水戸芸術館現代美術センター学芸アシスタント)さんにお話ししたら、「そんなことないよ。全然、就職してからも楽しく生きられるよ 」って、言われたんだよね。そのときもまた、目からうろこが落ちた感じがした。そんな出来事を通して、社会人になっても自分の人生を楽しんでいいんだなって思った。そう考えると、水戸芸術館とか、水戸の街に関わりながら生きていくのがわたしは一番楽しいって思って、それで水戸に就職したいなって、将来を決めた感じです。

夢のように、楽しい場所。
現実ではないみたいに楽しいけれど、現実の場所。

― 高校生ウィークとは、どのような場所であると思いますか?

車田:それについて考えてみたんだけど、難しいんだよね。すごくいろんな人と出会えてすごく楽しい場所。去年の手帳とかを読み返してみたら「夢のように楽しい場所」って書いてあったんだけど、現実じゃないみたいに楽しい、けど現実。そういう場所だと思う。

高校生ウィークが終わっちゃったらもうここに集まってるみんなが離ればなれになって、学校とかに戻らなきゃいけないじゃない。それが、現実じゃないみたいでおもしろいなあって、思って。もちろん高校生ウィーク以外の場所で高校生ウィークのスタッフに会ったりはする。でも、たくさんの人がこの場に集まって、一か月という期間何度も顔を合わせてスタッフをするっていうこと、全員がここにいて一緒に何かをすることっていうのは普段ないから。“お祭り”と一緒で、みんなで準備して、お祭りを実行して、終わっちゃったら、お客さんも実行委員会も集まっている人が全員散り散りになっちゃう、その時しか集まらない人が集まっている。

そんなところが現実味がない理由なんだけど、ただ、この楽しい時間も現実だと思いたいなって思う。なぜなら、高校生ウィーク以外の時間をつまらなく生きていくのは嫌だから。「また来年」っていうにはもったいないくらい、いろんなものを高校生ウィークからもらったので。それを活かしたいなあ、というか、活かさねばという使命感、がありますね。高校生ウィークしか楽しいことがないんじゃなくて、そこから広げていったもので、高校生ウィーク以外の場所でももっと楽しく生きていたい。だから高校生ウィークは、楽しく生きるきっかけをくれる場所、かなあ。

― 大学での専門は地域行政系・地域政策系だということですが、そのような視点などもふまえて考えてみると、高校生ウィークとはどのような場所だと言えそうですか?

車田:うーん…税金を使っている場所だなあって思われそう(笑)。実際の予算額は知らないけど、費用対効果とか考えると難しいんだろうなぁ。ただ、あんまり費用対効果とか言いたくないよね、と思う。そういう効果ではなく、すごく高度な美術を提供するということも水戸芸術館の大事な役目、効果だと思うから。あと、ある人がね、「水戸芸術館は水戸市民のための場所になっていない。東京から客が来てるじゃないか、おかしい」と言っていたのだけど、そんなことないかなって私は思う。高校生ウィークに関わった人、それは一握りかもしれないけど、その一握りの人にとってはすっごく“効果”があるというか、人生を変えるくらいの、すごくいいことがある場所だと思うから。

― ここに残りたくなっちゃうくらいの(笑)。

車田:そうね、市民を定着させる役割があります(笑)。全ての人に等しくいいものを、って感じの場所じゃないのかもしれないけど、関わった人にとっては本当にすっごく大きなものというか、数字で測ることのできない、いいものを得ることが出来る場所だと思う。

― 高校生ウィークに、今後どうなっていってほしいと思いますか?

車田:とりあえず続いてほしい。わたしはこの先も水戸にいるけど、高校生ウィークがあったら、来るたびに「ああ帰ってきたな」って思うだろうし、高校生ウィークから旅立った人たちも高校生ウィークに来ると「帰ってきたな」ってたぶん来たら思うと思うから、帰って来たいから、続いてほしい。あと、関わった人がもうどんどんきっと、人生を変えると思うから、今後も残って、いろんな人の人生を変えてほしい、狂わせていってほしい(笑)。どっちに転ぶか分からないけど。

― 高校生ウィークにはどのような意義があると思いますか?

車田:高校生ウィークは、アートを近いものにすると思う。
あと、高校生や大学生たちから見ると、大人を近いものにしてくれる場所だと思う。高校生や大学生って普段は基本的に、同年代の付き合いしかないんだよね。だけどここに来ると、大人ってこんな感じなんだ、ということがわかるし、自分の将来についても考えやすくなる気がする。自分の将来に対する選択肢がすごく増える。

一言で、高校生ウィークの意義をいうとすると、幸せに生きられますよ、ってことかな(笑)。高校生ウィークの会場にはカウンセラーっぽい人もたくさんいるから、精神衛生上良い効果をもたらすと思う(笑)。内向きになってしまって行き詰まっている人が、ちょっとでも、上向きになってくれるきっかけを得られる場所なんじゃないかなと思う。考えていることや悩んでいることがあったりする時、タイミングが上手く合うと、本当に、高校生ウィークに来ることで何かが変わったりすることがある。ここに来ることで大きな効果が得られることがあるのね。高校生ウィークには、「ここが必要な人」たちがいるんですよね。そういう人たちは絶対に、この世界に一定数存在しているんだと思う。

― ありがとうございました。

くるまだあやか
1992年福島県県生まれ。茨城大学人文学部卒業。

聞き手:岡野恵未子 反訳:金沢みなみ 文章:岡野恵未子  編集:森山純子 写真:石田龍太郎 動画:根本譲・石田龍太郎 写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2014年3月30日 水戸芸術館現代美術センターにて