自分を再認識できる “場所”

話し手:ゴロゥ/大野沙耶香(イラストレーター、デザイナー)

2008年〜2013年の高校生ウィークで会場マップを制作していたゴロゥさん。高校卒業後は茨城県を離れ東京を拠点にイラストやデザインのお仕事をされていました。その後、約一年間の鳥取県での生活を経て、この春から再び茨城県へ拠点を移し活動されるご予定とのこと。ゴロゥさんは、高校生時代から現在に至るまでの自分自身の変化と高校生ウィークとの関わりをどのように考えていらっしゃるのでしょうか。ゴロゥさんが高校生ウィークに来るきっかけを作った、森山純子さんにお話 を聞いていただきました。

自由な時間に、自由な関係で集まれる仲間たち。
「ここにカフェが出来るから遊びにおいで」と声をかけられた。

― ゴロゥさんと最初に会ったのは、2004 年の高校生ウィークでしたね。あのとき、芸術館のワ ークショップ室を出たところにある回廊で、ゴロゥさんを含む何人かの高校生が遊んでいたと思 うんですが、あの時は何をしていたんですか?

ゴロゥ:高校生の時に、人が集まって遊ぶ場合、時間を決めて、最後まで皆で一緒に遊んで、皆でバイ バイする、みたいなのがちょっと嫌だなと思っていて。それで、自分が好きなタイミングで来 て、好きなときに帰ったりとか、あんまり相手のことを気にし過ぎたりしないで、自由な関係性 で集まれる仲間みたいなのが出来たらいいなと思ってた時期があったんです。それで、そんな感 じの友達を集めるための募集チラシを作ったりして、仲間をつくって、遊んでいました(笑) 芸術館の庭でやっていたフリーマーケットで仲間の募集チラシを配ったんですが、そのおかげ で、同じことを思っているような友達と出会いました。他校の人とも友達になれたし、いろんな 人に会えましたね。

そうやって遊んでた時に、森山(純子・水戸芸術館現代美術センター教育プログラムコーディ ネーター)さんたちが通りかかって、「ここにカフェが出来るから良かったら遊びにおいで」っ て言われたんだと思います。その時は何のことか分からなかったんだけど、なんていうか、そう いうのに乗りたい感じはありました。

それで、そのチラシを通じて集まって仲良くなった友人たちと、高校生ウィークのカフェに遊 びに行くようになりました。その時に仲良くなった人達は、なんかこう、どこかトーンが近かっ たのかもしれませんね。その人たちとは、今も薄ーくですが繋がってます(笑)あんまり頻繁に 会ったりはしないんだけど、気にしてます。同時代性っていうか、その時期の感じがあるんですよね。

― 高校生ウィークに初めて参加したのは高校3年生の春でしたよね。

ゴロゥ:そうですね。高校生ウィークに出会ったのが高校3年生の春休みで、その後すぐに東京の専門学 校に行く予定でした。その頃はもう水戸なんて全然面白くないと思ってたし、自分の中では「早 く東京に行きたい!」って思ってたのに、高校生ウィークに出会って、「こんな面白いところが あるのか!」って思うようになりましたね。むしろ東京行くのが惜しくなりました(笑)そのこ とはよく覚えてるなぁ。

高校生ウィークは自分にとっての「物差し」
自分の立場や状況が変わるたびに、違う関係で、会いなおす。

― 当時のあなたにとって高校生ウィークはどういう影響がありましたか?また、それはどのよう に変化していきましたか?

ゴロゥ:高校生の時、初めて出会った時には、やっぱり全然知らなかったものに触れた衝撃がすごく大 きくかったですね。はじまった感じがすごくする。まさにスタート。扉が開く感じですね。いろ んな人に会ったり、今までに無かったものに触れるような機会がすごく多かった。

その後、茨城から離れて、たまに遊びに戻ってくるだけの専門学校生の時とかは、中間的な感 じだったかも。まだ水戸芸から仕事を受けて発注するような関係性でもないし、グッと近い距離 で関われるような関係性でもないし。自分が高校生ウィークから離れて、今度は新しい人たちが ここに入って来るようになると、一気に場所が新しくなっていて、そこに対する距離の取り方み たいなのが、わからなかったですね。でも、自分が最初にグッと関わっていたときの空気感が変 わって、新しい場所ができたときに、どう距離をとればいいのか……そのときは若いから、まだ うまく距離をとることが出来なかったですね。変わっていってしまう悲しさみたいなのと、でも その中に残っているものをどういう風に消化していいのかよく分かんない感じで、でもやっぱり 好きな場所だし、みたいな気持ちが混在していましたね。

専門学校時代は、展覧会を観たり、「おはりこ」(「日々の針仕事」。高校生ウィークのカフ ェ会場では、裁縫が設置できる体験型のワークショップが設置されている)をやったりしつつ、 高校生ウィークの全体や空気感を見ながら、「やっぱり変わっていくんだな」っていうのを思い つつ過ごしていました。

そういう時期を経て、会社に入って、辞めて、今度は水戸芸とチラシの仕事を受けたりするよ うな関係性になると、今まで見ていた関係性と違うようになってきました。「遊びに来ている高校生」 みたいな、単純に受け身な気分から、ちょっと立場が変わってくるというか…少し裏側から見え てくるようになりました。「あ、こんなこと考えてやってたんだな」っていうのが見えてくるよ うになった。まぁ、大人になったからこそ見えてきたこともありますけどね。そういうのが見え たり、いろいろやり取りする中で話す内容も変わって来たりしました。そうすると、また自分の 新しい位置や居場所も出来て、ここに来るようになる。そうすると、もうさすがに高校生たちと の距離も取れるようになってきました。

そのあたりの時期から今までは、毎回同じように更新されていく感じかな。「自分がどうなっ たのかな」、って見ながら、過ごす感じですね。

― 高校生ウィークで印象に残ってるエピソードはありますか?

ゴロゥ:樋口(雅子。元・水戸芸術館現代美術センター教育普及担当)さんが辞めるときに、すごく号泣した時があったんです。「人前でこんなに泣くとは…」って自分で思うくらい。でも、なんか、悲しい涙じゃなかったんですよね。悲しい、とか。寂しいとかじゃなくて、どちらかといえ ば感極まったというか、嬉しいというか、そんな感じでしたね。なんか、映画を見て感動して 「良かったね!」って泣くみたいな感じかな。私はどちらかというと、悲しくて泣くよりは、何 かが達成された時に泣くタイプなので、たぶん、自分の中の何かがうまくつながったんでしょう ね…。なんかね、空気に泣いたんですよ。居心地がすごく良くて嬉しくなっちゃったのかもしれ ないです。それと、会社が辛かったのもあるかもしれない(笑)。

だから、「あ、そうか。ちゃん とこういう所があるんだな」って嬉しくて泣いたのかも。再認識したのかな。あんまり人前で泣 かないですからね。嬉しかったです、泣けたのが。

樋口さんが退職される時のタイミングは、ひとつの「物差し」だったと思います。私にとっ て、高校生ウィークは、自分にとっての「物差し」になってるんですよね。1年に1回高校生ウ ィークに来るたびに、自分がどういう風に変わったのかがすごい分かりやすい。毎回ここに来る たびに自身の再認識が出来て面白いです。それがしたいというのもあって、今年も絶対来ようっ て思う。自分がどんな風に変わってるかが、すごく分かりやすい。旅に出るときとかに、あらた めて自分を再確認しに行く感覚に近いかな。ここは自分が一番多感だった頃に来ていた所だか ら、自分の基準となる原点を確認できるんですよね。

樋口さんの退職は、そういう意味では、まさにそのことを自分で再認識した出来事だったのか もしれないです。

― 高校生ウィークの中で印象に残った人はいますか?

ゴロゥ:いっぱいいますよ。でも、一番最初にカフェに通い始めたときに会った人たちが、やっぱり一 番「濃い」かな。そのとき出会った人たちとは、自分の立場とか状況が変わるたびに何度も会い なおしてる。違う関係性で会っていくっていう感じです。

自分がはじめて高校生ウィークに参加したときは、高校生よりも、大学生とか上の世代の人た ちが多くて、高校で会ってた人達とは違う空気を持った人達に一気に会った感じがして面白かっ たです。

“場所”という言葉が、自分の中に生まれた。
それが、今つくろうとする“場所”につながっている。

― その頃から、今のゴロゥさんの仕事や生活につながるような、モノやコトへの興味はありまし たか?

ゴロゥ:そうですね。何かを作ったり、作ることに関わるようなことは何でも好きでした。でも、“場所” っていうものに対する興味が初めて生まれたのは、高校生ウィークかな。

自分が高校生の時は、なんていうか、この高校生ウィーク全体のことを、自分の言葉で言う、 “場所”に当てていました。“場所”っていう言葉が自分の中に生まれただけで、それがどういうことか、っていうのは多分全然分かっていなかったんですけどね。ただ、この高校生ウィークの “場所”みたいなものに対する憧れはありました。憧れっていうか、「いいな」っていうか。それをどう自分が捉えているか分からないままに、”場所”っていう言葉に「ガンッ」てやられてるっ ていう感じでしたね。

専門学校に行ったときに、一番最初に授業かなにかで、「何年後かに、自分はこうなっていた い」みたいな文章を書いた気がするんですよね。で、そのときに“場所”って言葉を使ってこの高校 生ウィークのことを書いた記憶があります。

今、鳥取に家を買って住んでいるんですけど、ここで今まで自分が向き合いたいと思ってきた “場所”と向き合おうと思ってるんです。“場所”みたいなものを作りたいなと思い続けてずっ とやってこなかったものを遂にやらなきゃな、と思ってる。それまでは東京に住んでいて、東京 では友達も周りに多くて、毎日が楽しくて。でも、このままではイカンと思いました。自分が向 き合いたいと思ってるものを今やっていますか?と言われた時に、ちょっと違うなと思って。逃 げている訳でもないんだけど、向き合いきていないような感じだったんですよね。

今作ろうとしている”場所”は、高校生ウィークのカフェにある空気感に、すごくつながっていま す。以前、カフェについて解剖をしたことがあって……この場所を形づくっているものは何なの かを考えてみたんです。例えば、カフェ。コーヒーが飲めて…とか、本が置いてあって…とか分解して書き出しました。その解剖を突き進めて、自分が向かいたい“場所”というものを考えて いったので、すべてつながっているような気はします。

高校生ウィークは「つなげる場所」。
何かに出会ったり、つながったりする場所。

― 高校生ウィークとはどのような場であると思いますか?

ゴロゥ:なんですかね。つなげる場所みたいな感じがするんですけどね。

もちろん人と人をつなげる場所でもあるけど、それ以外もあると思うんですよね。例えば私は ここで“場所”っていう言葉とつながったりした。外の世界とつながったというのもあると思 う。なんかこう、自分の中でも持ってたけど、どことそれを繋げたらいいのか分からなかったも のが結構つながったりしてるんじゃないかなって思います。どうしたらいいか分からなかったものがここに来ると出していける。音楽、コーヒー……何でもいいんですけどね。何かに出会ったりつながったりする場所かなと思ってますね。

あと、自分が高校生の時代に来ていたから、学校との関係で高校生ウィークを意識することも ある。放課後に遊びにくる、っていう感じ。私は実際の学校の方ではあんまり馴染めてなかった というか、素の自分を出せなかったというか、文化祭はエンジョイできないタイプだった。高校 生ウィークは、学校の空気感があったけど、他校とか全然違う年代の人とかが集まってる。だか らこそ在りうる、この空間の学びっていうか、学校感みたいなものがある。高校生ウィークは学 校で学ぶのとは違う学びが出来る場所ですよね。そういうのが面白かったかな。

― 高校生ウィークはどのようになっていくと思いますか?

わからん! (笑) わからんけど、高校生ウィークという場所が、ガラッと違う方向性に変えな い限り、なんていうか、同じようなトーンは残り続けていくんじゃないかなぁと思いますね。も ちろん来る人とかによって全然雰囲気が変わるけど、根底に流れているものっていうのはあんま り変わらないんじゃないかなと思いますけどね。

ベースが変わらない方が、来る人とか時代の空気が変わっていった時に、何がどう変わったか 分かりやすいと思います。

― 最後に高校生ウィークに何か一言お願いします。

が、頑張ってください!無理をさせたくないけど、すごく応援してる。「何かあったら、言って!見てるよ!ずっと!私に出来ることあったら言って!」って、そんな 感じです。(笑)

ゴロゥ(ごろぅ)
1985年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイナー。高校生ウィーク会場のマップ制作や、水戸芸術館に関わるイベントチラシのイラストも手がける。www.ebreday.net

聞き手:森山純子 反訳:生天目響子 文章:生天目響子 編集:森山純子 写真:高羽秀美
写真提供:水戸芸術館現代美術センター
取材日:2014 年 4 月 3 日 水戸芸術館現代美術センターにて